information

 こちらは理系イラストレーターのタテノカズヒロの
 数学マンガブログです。書籍化決定! 目指せドラマ化(炎)(メインのHPはコチラ
   お仕事のご依頼お待ちしております。(コチラから)
 ★この数学漫画ブログについて
 ★バックナンバー一覧はコチラ  ★登場人物 紹介
 ★感想をTwitter(@tatenokazuhiro)でお待ちしております。

2013年8月16日

第25話 ヒルベルトホテルでは自然数と偶数は同じ個数 - 無限


 『スーパーマリオブラザーズ』(1985)には「無限増殖」という技があります。無限という言葉自体は、こんな風にゲームの裏技の名前に使ってみたり、対数、因数分解、素数、複素数...などの数学用語に比べて、わたしたちの日常生活においても馴染みのあるものです。
 しかし、数学において無限を考えることは、対数や因数分解よりずっとずっと難しい。特殊な領域と言ってもいい。

「無限増殖」は、階段を降りてくるノコノコをタイミング良く踏みつければ、甲羅を叩き続けることができ、連続1UPが可能になる裏技ですが、実際は最大で127機で、それどころか、それを越えてしまうとゲームオーバーになっちゃいます。正しく言うなら、大量増殖です。もし、任天堂の心意気で、無限1UPができるようにソフトが改良されたとしても、それをプレイする人間の寿命に限りがあります。ならば、人間の代わりに、専用ロボットを作ってプレイさせたとしても、いつかは故障するでしょう。そのロボットより先に、ファミコンが壊れるでしょう。壊れないロボットとファミコンを作っても、エネルギーがいつか枯れるでしょう。永久エネルギーを発見しても、いつか地球が死ぬ日がやってくるでしょう。
 ことごとく有限です。わたしたちの住んでいるこの世界はことごとく有限です。無限という言葉には馴染んでいても、有限なわたしたちが厳密に無限の世界を理解するのは難しいんです。

 この本の全30話のそれぞれのテーマのほとんどが、それ一つだけで一冊の本にできるようなものばかりで、無限についても本当は数ページで書けるような代物ではありません。ざっくりとご紹介も難しい次第なので、漫才師の「名前だけでも覚えてください」じゃないですが、無限の世界の入り口あたりで出くわす「ショックなこと」を一つだけご紹介して、それで数学的無限の世界を少し覗いてもらって、無限に興味を持ってもらえればと思います。

(記事後半につづく...)

(※ クリックで画像拡大します。)
ヒルベルトホテル_01

ヒルベルトホテル_02
(※ クリックで画像拡大します。)

 もし無限1UPができたなら、機数は次のように増えていきます。

 1、2、3、4、...(→∞)

 これは自然数の無限です。まずは、この自然数の無限をイメージしてください。
 次に、偶数の無限を考えてみます。

 2、4、6、8、...(→∞)

 さて、ここで問題です。自然数の無限と偶数の無限、どちらの無限が大きいでしょうか。
 この時、「ショックのなこと」が出現します。
 自然数の数は、偶数の2倍あるのだから、自然数の無限は偶数の無限の2倍の大きさがある!...ように思いませんか?日常感覚でイメージするとそんな風に思えるですが、数学的にこれは間違いです!
 自然数の無限も偶数の無限も、奇数の無限も、すべて同じ大きさ!
 これが正解です。数学においては、こうなってます。

 どうしてそうなるのか。どんな論法でそれが証明されるのか。それは「1対1対応」という方法です。無限の世界は難解ですが、これは数を数えることもできない羊飼いでも理解できるシンプルな方法です。
 数を数えることができない羊飼いが、羊を放牧し、夕方になり羊が帰った時に同じ数の羊がいるかどうかを確かめるには、どうすればいいでしょう。
 羊を放牧するときに、羊一匹につき一個の石を置いておくのです。
 帰ってきた時に羊の数と石の数が合えば全員帰ってきたことになるし、もし石が一個余れば、羊が一匹まだ戻ってないことがわかりますよね。これが「1対1対応」です。(図25-1)


 それでは自然数と偶数についてはどうでしょう。1に対しては2、2に対しては4、3に対しては6...という風に、どこまでいっても、自然数に1対1で対応する偶数がありますよね。羊が石の数とぴったりに帰ってきたように、自然数の数と偶数の数がぴったり合うのです。これが証明です。
 
 いかがでしょう?以上のことだけでも、腑に落ちない曖昧な気分になって当然ですから、無限について書くのはここまでにしたいところですが、もう少しだけ。さらなる混乱を招いてもいけないので、以下<数行>は読みとばしも可です。
 <実は、自然数と偶数どころか、自然数と有理数の無限の大きさも同じです(有理数については第16話参照)。有理数、つまり分数はそりゃーもー自然数よりもたくさんありそうな雰囲気ですが、これも1対1対応できて、数学的無限の世界においては、同じです。
 さらに、実は、自然数と実数とではどうか。実数は、自然数の無限より大きな無限です。より濃い無限だ、と言ったりもします。つまり、無限にも大小があるのです。>

 こんな魔性の無限の世界に挑み、はじめて数学的に無限の意味を捉え、革命的な「無限集合論」を創り上げたのは、ドイツの数学者カントール(1845-1918)です。古代より無限と格闘してきた人類でしたが、カントールが自分の命と引き替えに無限の正体を暴いたのは、ほんの100年ほど前、20世紀になったからでした。
 カントールは無限について論文を発表したのですが、当時の数学者クロネッカーやポアンカレにボロクソに言われ、ちっとも認めてもらえませんでした。カントールにとって、クロネッカーたちがしょーもない数学者なら気にもしないでしょうが、彼らもさまざまな業績を残した天才です。そんな天才たちに「あいつは狂っている」とことごとく相手にされず、しだいに精神的に病み、失意のまま療養所でその一生を終えました。

  マンガに描いた「ヒルベルトホテル」は、天才数学者ダフィト・ヒルベルト(1862-1943)が、カントールの「無限集合論」を擁護するために、無限の概念をわかりやすく理解してもらうために提示したたとえ話です。
 このたとえ話をはじめて読んだとき、『世にも奇妙な物語』に似た不思議な魅力を放っていて、いつかマンガに描いてみたいと思っていたのが、ようやく実現できました。
「ヒルベルトホテル」は現実の物理世界では実在しえないホテルです。でも、人間の思考の中では、数学的無限を扱う論理の上では、存在します。人間が何かを考える、発想する──何にも縛られない思考の自由。「ヒルベルトホテル」はその象徴のようにも思えます。


<オススメ&参考図書>


トラックバックURL

このエントリーのトラックバックURL:
http://www.studio-ggy.com/cgi-bin/mt4/mt-tb.cgi/460

コメントする